ワンスターと呼ばれるドーナツボタンには月桂樹のデザインが施されています。
太平洋戦争中には、ブランドに関係なく、ジーンズ以外のアイテムにも、戦時下共通デザインのボタンとして使われていました。
写真のドーナツボタンは、デニムだけではなく、制服などに使われるツイルやヘリンボーンと呼ばれる、生地の引き裂き引っ張り強度が弱い、薄手の生地にも対応出来る仕様のツープロン(二本爪)と呼ばれるボタン。
戦争中のアイテムなのに、平和の祭典と呼ばれるオリンピックを象徴する、オリンピアの頭上を飾るオリーブの冠のデザインなのは、複雑な気持ちになります。きっと当時のデザインに関わる人々の願いが込められていたのかもしれません。
このデザインのボタンは、戦後70年以上たった現在でも数多く見受けられます。ブランドロゴが入っていないから、数多くの商品に採用されています。
戦争中だからという理由で、共通デザインとして採用されたボタンが、現代では、ブランドロゴが入っていないという理由で、幅広く採用されているのは、日本は平和なのだと感じます。
一方で、touch is love ®︎ JEANS のボタンには、愛と平和を願っていたであろうジョンレノンが書いた、LOVEという曲の、愛することはふれあうこと。ふれあうことは愛すること。”Love is touch.Touch is love.”と言う一節の中の”touch is love.”の部分が入っています。
今から15年ほど前のブランド設立当初、このボタンの金型を発注するのに、結構な金額が必要なために、まさに清水の舞台から飛び降りる的な思いがしました。
金型は、ジーンズの一番上のトップボタンと、ジーンズの前開き部分についているフライボタンの、合計2種類の金型が必要で、しかも、一回のプレスで2000個以上出来上がるという、スタートアップ時期のブランドにとって、それはそれは勇気のいるものでした。
その、勇気が必要だった事に関して、金額以外に、もう一つ、私には別の勇気が必要でした。
実は、私は、ブランド設立時に、リーバイスと同じように世界の人に愛されるブランドを作りたいという、大それた考えを持っていました。
150年以上の歴史を持ち世界中の人に愛されているリーバイスで、しかも、リーバイスの商品企画の仕事をしてきた自分が、リーバイスブランドを好きなのに、一種の反逆行為をするということが、とても勇気がいることでした。
結局は、ボタンにブランド名が刻印されていないのはダサい、と言う自分の感覚的な判断で、その金型を作ることにしたのです。まだ一本もテストセールスしてないのに。冒険以外の何者でもないのが今ならわかります。
その後、2011年の秋に、自分が住んでいる茅ヶ崎で、touch is love JEANS storeをオープンしました。
しばらくしてから、リーバイスの商品企画部時代の同僚・ジョージが、お店に、ふらりとやってきました。
何も言わずに、私の作ったジーンズを見ている彼に、私はドキドキしていました。小学生の頃に、先生の目の前に宿題の答案を提出した感じ。その間、10秒か15秒くらい。
ジョージは最後にボタンを見て「だよな。ブランド入ってないとダサいよな」と。
その時、彼の目に、私のジーンズがどう映ったのか、感想は聞きませんでした。ジョージも、『だよな』しか言わなかったし。
そんなことがあってしばらくしてから、彼は日本を離れ、世界中のアパレル企業に対してジーンズの企画を提案するファクトリーで仕事をしていると聞きました。
今、このボタンを見ていたら、当時の、自分の作った物に対して、確認と了承を得たみたいなホッとした自分の気持ちが思い出されます。
同時に、あの時、ジョージが何を思っていたのかを想像しています。
リーバイスのLVCと言う史実に基づいたジーンズを作る仕事をしていたジョージは、他のメンバーよりも、とりわけ、ブランドの仕事というものに思い入れがあったと思うのです。
そんな彼が、touch is love ®︎のボタンを見た時に、ブランドで仕事をすることの意義みたいなものを確認していたのかもしれなと。ちゃんとした、真っ当な物を作ることの評価が気になっていた私とは別のホッとした気持ちだったのかなと。
そう思ったら、自分は今、たくさんのお客さんに、touch is love ®︎ブランドのジーンズを買っていただいていて、その事自体が有り難い事だから、ブランドの価値について、もう一度、自分の中で、その特別な気持ちを大切にするべきだなと思います。
touch is love ®︎ブランドは、ふれあうことは愛することと言う歌詞の通り、人を思う気持ちからスタートしたブランド。
私の勝手な妄想は不要のものだけど、安心する気持ちになれるジーンズを、お届けするブランドであり続ける事が大事だなと思っています。